保育者様へ

フレーベル館のココだけの話

 

HOIKUのYOU歩道 第2回 荒井 洌先生のあんなこと こんなこと

2012/10/23

第2回は、白鴎大学名誉教授の荒井 洌(きよし)先生にご登場願いました。
荒井先生の“保育の遊歩道”には、どんな発見があるのでしょう?
あなたの保育を楽しむために、ご一緒に歩いてみませんか?
“遊歩・友歩・YOU歩”…あなたにとっての道の向こうには、何が見えますか?

荒井 洌先生の「はじめまして物語」
私のライフ・ヒストリー

1939年、福島県郡山市生まれ。

太平洋戦争が激しくなった1944~1945年に、幼稚園に通いました。園そのものや園児数がきわめて少なくなった時期の、“稀少価値”の園児でした。思い出は、警戒警報のサイレンや防空頭巾、それに戦争の歌、などなど。

幼児保育を専門とするようになって、スウェーデンなど北欧の保育や文化に関心をもつようになりました。比較文化論的に、そして歴史的な流れを軸にして勉強を続けてきたつもりです。スウェーデンやノルウェーなど、北欧には何回も通いました。

現在は、大学院(群馬医療福祉大学大学院など)で、研究の道を志す人たちの指導に当たっています。

近況は、全国ネットのゼミナールで…

もう、かれこれ30年近くになるでしょうか。北欧への行き来などで培ったセンスを基にして、小さな勉強会を始めました。

それが、知らぬ間に全国ネットの勉強会に成長しました。「NPOほいくゼミナール・21」という名の、保育園の園長さんたちを中心に、加えて各園の若々しい保育者の方々も集う、日本列島全域に渡っての勉強会(ゼミナール)です。

これは、いわゆる“研修会”ではなく、お互いが知恵やセンスをプレゼントし合う“ゼミナール”です。毎年、全国各地で行うゼミナールはとても楽しみで、各園のユニークな発想や工夫が見られるのが何よりです。これからも続けていくつもりです。

私のたのしみ…古本とのおつきあい

東京は神田のニコライ堂に近い、とある路地を入ると「古書会館」という建物が目に入ります。そこでは、月に2~3回、週末に古本の展示会が開かれます。

私は大学生になって間もなく、ここを知り、しばしば通うようになりました。ですから、すでに半世紀以上のおつきあいになります。

そこに入ると、少し昔の本や、ずっと昔の本、それから外国の本、さらには絵や書や古文書類なども並べられていて、心が躍るのです。

そこに出かける時、私はまったくの“無欲”です。すると、いろいろな本に出会えるのです。“欲”をもつと視野が狭くなり、目に入るものが限定されてしまうからです。

思い出のスカンディナヴィア半島

少しばかり大げさに言うと、私にとってスカンディナヴィア半島は“第二のふるさと”というくらいの存在になってしまいました。

『児童の世紀』を著したエレン・ケイ(Ellen Key)が建て、老後を過ごした“ストランド荘”(水辺の館)を訪問した時の思い出を少しばかり…。

最初に訪れた時、彼女の書斎のデスクを見ると、かなり以前に日本人が書いた本が置いてあったのです。私は心の中で、「よし、この次はエレン・ケイについての本を書いて持参しよう!」と誓いました。

そして、フレーベル館から『エレン・ケイ 保育への夢』を上梓(じょうし)させていただき、その本を手に、再び「水辺の館」へと向かいました。

各園が、ユニークな保育であるように…

“Everyone is unique!”という言い方があります。これを私なりに訳せば、「一人ひとり誰もが、その人にしかないものをもっている」といったところです。

“Unique”とは、そのもの、あるいはその人にしかないもの、といった意味ですから、とても意味深い単語です。ちなみに、英語の辞書を引いてみてください。「ひとつしかない」「独特の」「特有の」「比類ない」「素晴らしい」などと書かれています。(三省堂『コンサイス英和辞典』)

ところで、日本の保育界でしばしば使われている“個人差”という言葉は“差”の概念ですから、私はあまり好みません。これからは、“個性”すなわち“unique”につながるセンスを培っていくべきだと考えます。個々の子どもを見る場合はもちろんですが、その園その園ならではの味わいを育んでいく雰囲気となるように…。

ときには、遠方の園へ出かけてみるのも…

1万円札でおなじみの福沢諭吉の著作に『西洋旅案内』というのがあるのですが、なんと明治になる前の年(1867年)の発行です。その中に、こんな文章があります。

「朋(とも)の遠方より来(きた)るは、

ずいぶん悦(よろこ)ばしくもあるべけれども、
ただ人の来(きた)るを、いながら待つばかりでもなし。
折節(おりふし)は、こちらからも遠方へ出かけたきものなり。」

なんと進取的な精神でしょう。そこで提案です。ときには、遠方のユニークな園の存在をキャッチし、思い切って出かけてみたらどうでしょうか。

日本は狭いようで、なかなか広いもの。“違い”を知ると、そこから“思索”が始まります。すなわち、比較文化論(比較保育論)です。

<編集部より>

荒井 洌先生  あ・ら・か・る・と

荒井先生と出会ったのは、20年ほど前。『保育専科』という保育雑誌の担当になったばかりの初めての連載依頼の時でした。

開口一番、荒井先生は保育のフィロソフィーを語り始め…原稿依頼の内容の説明どころか、延々と聴講する側になってしまったのです。今となっては、笑い話のような出会いでしたが、あの時のことは鮮明に覚えています。

いつもチャーミングな荒井先生。寄稿される文章のひとつひとつに丁寧に向き合い、常に読者側の気持ちを大切にしながら、シンプル&ビューティフルな誌面を意識していらっしゃいます。その姿勢は、今も変わらず、こうして「HOIKUのYOU歩道」を、チャーミングに案内してくださいました。

2012. Autumn (Chiyo)

荒井 洌先生の著書から

→書籍詳細

『倉橋惣三 保育へのロマン』

荒井 洌/著 2,000円(本体価格)

日本の近代教育体制の開始を追うようにして、おさな子への保育のシステムもつくられ、方法や内容も定められるようになりました。牧歌的な、神様の領域内にあった子どもたちの日々は、大きく様変わりしていきました。

このような状況を目にしながら、心ある人たちは何かを考えなければならないと、思い悩むようになりました。人間本来の自然体と不連続な、硬直化したスタイルへの疑問です。倉橋惣三は、その代表選手とも言える存在でした。

- 本書の「まえがき」より -

『倉橋惣三 保育へのロマン』の あんなこと こんなこと

☆初版発行は、1997年7月10日

その後、多くの方々が手に取り、目を通してくださったのでしょう。2012年には、第12刷が出版されました。とても嬉しいことです。

☆人間論としての幼児保育のあり方

倉橋の発言や執筆は、主として大正時代や昭和戦前のことです。しかし、今読んでも、とても新鮮な印象です。なぜなのでしょう? それは、多分、人間論として幼児保育のあり方を追求しているからだと思います。本書は、日本の保育界にとって、まさに“これからの本”と言えるのでは…。

☆タイトルと、表紙のイラストとの“アンサンブル”

本書のタイトルと、表紙のイラストは、ピッタリと合っています。タイトルどおり、ロマンにあふれた内容です。

『エレン・ケイ 保育への夢 -「児童の世紀」へのお誘い-』

荒井 洌/著 2,000円(本体価格)

エレン・ケイは『児童の世紀』の中で、赤ちゃんと赤ちゃんを慈しむ人を描いて、次のような文章を書き付けました。

未来が子どもの姿でその腕に眠り、
歴史がその膝で遊ぶのだ。

いかがでしょう。エレン・ケイの感覚と言いましょうか、発想と言いましょうか、なんとロマンチックなことでしょう。思わずうなってしまうセンスです。

『エレン・ケイ 保育への夢』の あんなこと こんなこと

☆スウェーデン生まれのエレン・ケイ

エレン・ケイは、スウェーデンの女性です。本名は、Ellen Karolina Sofia Key, 1849年生まれ。1926(大正15)年に亡くなりました。『児童の世紀』は、1900(明治33)年、彼女が50歳の時に出版されました。

☆子どもにとっての最高の幸せとは

『児童の世紀』の中で、彼女はゲーテの次のような言葉を引用しています。

この地球上の子どもたちにとっての最高の幸せとは、
それはただひとつ、一人ひとりの人格が尊重されることである。

この言葉、いかがですか? ジーンときませんか!

『園をみどりのオアシスへ -幼児保育における放牧の思想-』

荒井 洌/著 1,700円(本体価格)

私は、幼児保育のことをずっとやってきたのだが、そして日本の保育のありようについて、多少はものを言ったり、書いたりしてきたのだが、“オアシス”と“放牧”とをキーワードとする今回のタイトルは、私の今に至る幼児保育についての見解や思いを凝縮させてみたつもりである。

「みどりのオアシス」あるいは「放牧の思想」に、日本の保育界が脱皮していくことを夢見ながらの一冊である。

- 本書の「プロローグ」より

『園をみどりのオアシスへ』の あんなこと こんなこと

☆倉橋惣三と「保育要領」の誕生

「保育所保育指針」や「幼稚園教育要領」の大先輩に当たるのが、第二次世界大戦後まもなくの1948(昭和23)年に出された「保育要領 幼児教育の手びき 」というものです。この「保育要領」は、倉橋惣三らによってまとめられました。

本書には、このことについても詳しく記されています。

☆未来の保育を描く

スウェーデンの女性、アストリッド・リンドグレーンの『やかまし村の子どもたち』は、お読みになりましたか? 牧歌的な風景の中での、元気いっぱいの子どもたち。

本書は、そんなセンスで、近い未来の保育を描いてみたつもりです。

表紙の緑色のイラストは、本書のセンスをよく表しています。

電子書籍 好評発売中!

『倉橋惣三 保育へのロマン』

荒井 洌/著 1,400円(本体価格)

『エレン・ケイ 保育への夢』

荒井 洌/著 1,400円(本体価格)

<編集部より>

3冊の著書のおすすめPOINT

『倉橋惣三 保育へのロマン』『エレン・ケイ 保育への夢』『園をみどりのオアシスへ』は、荒井先生の三部作。倉橋惣三⇒エレン・ケイ⇒北欧の保育…との関連性などが、わかりやすく紹介されています。

2012年は、倉橋惣三の生誕130周年。

倉橋は、どんなふうに思索していたのだろうか? その保育の理念やあり方を現代に活かすとしたら?

そのヒントを探してみましょう。

2012. Autumn (Chiyo)