保育者様へ

フレーベル館のココだけの話

 

HOIKUのYOU歩道 第1回 諏訪きぬ先生のあんなこと こんなこと

2012/08/28

第1回目は、元明星大学教授の諏訪きぬ先生にご登場していただきました。
諏訪先生の“保育の遊歩道”には、どんな発見があるのでしょう?
あなたの保育を楽しむために、一緒に歩いてみませんか?
“遊歩・優歩・YOU歩”…あなたにとっての道の向こうには、何が見えますか?

諏訪きぬ先生の「はじめまして物語」
私のプロフィール

 1940年神戸生まれ。国際都市神戸で育ち、田舎は苦手という母に連れられて疎開した三河地方の農村で幼少期を過ごし、中学1年生の時、名古屋に転居。そこは中学も高校も大学も近い、まさに“孟母三遷の教え”を地でいったようなところで、向陽高校は、始業ベルが鳴ると同時に家を飛び出すほど自宅の目の前にありました。「開始時刻=出発=遅刻」の悪習はこの時期についたものです。

 1966年名古屋大学大学院教育学研究科修士課程を修了。名古屋大学教育学部の助手を振り出しに45年間、短期大学(稲沢女子・鶴川女子・共栄学園)・4年制大学・大学院(鳥取大学・明星大学)で教鞭をとり、「子どもにとっても・親にとっても・保育者にとってもよい保育を創ること」をテーマに保育実践・研究を重ねてきました。

近況は、“NPO活動三昧”

 2011年3月に大学を定年退職した後は、地元のNPO法人さやま保育サポートの会の代表理事として、「よつばのおうち(家庭保育室)」「子育てプレイス奥富(子育てひろば)」「保育サポート研究所(委託研修・保育の感情労働研究会の主宰)」の運営に当たっています。また、2012年5月に誕生した「さやま子育て支援ネットワーク(狭山市内にある子育て支援29団体が加入)」の代表も務めています。

 これとは別に副代表をしているNPO法人が、中国の貧困地区支援をしている宋慶齢基金会日中共同プロジェクト委員会です。長年にわたって中国の農村地区に机や椅子、図書を届けてきましたが、そのお礼に3・11大震災へのお見舞いとして上海宋慶齢基金から200万元をいただいたので、宮城県・南三陸町の保育施設復興の援助に役立てていただこうと支援活動をしています。

 趣味の一つは、茶道(裏千家・宗絹)。月3回松風を聴き、美味しいお茶と和菓子をいただくことを楽しみにしています。もう一つが、スキューバダイビング。美しい海中で繰り広げられる生き物たちの生存競争。雄大な海の中で、自分の“いのち”の小ささやはかなさ、生きとし生けるものたちの“いのち”への愛おしさを体感しています。

私の関心事…ベスト2

1) 待機児受け入れのため保育施設増設のかけ声は高いですね! やがては、300万人分の子どもを受け入れる予定とか。長時間・長期間保育の普及がわが国を保育収容所列島と化さないように、6年間の豊かな育ちを支える保育の体制づくりが急務。子どもの目線を大切にした質の高い保育の実現を共に目指したいものです。

2) 洋風から和風へ趣味を転換中。オペラ、コンサート、絵画鑑賞に加えて、最近、歌舞伎・文楽・能・狂言などわが国の古典芸能に関心を向けています。そのような芸能も茶道も、日本の文化史的には“仏教”を揺籃にしています。また古典芸能には、多様な愛の形や子育てのあり方が描き出されています。子育てのあり方に展望が見出せない今、日本の文化史から学び直すことも必要かと思うのです。

私の心を動かした保育者との出会い

 私が本気で保育者の方たちとかかわるようになったのは、40歳を迎えた1980年頃からです。二人のわが子も成長し、夜に多少家を空けやすくなったこともあって、出会った園で請われるままに相談や話し合いの輪の中に身を置かせてもらうようになりました。それ以降今日まで、保育者の皆さんとタグを組んで“保育を変える”をテーマに、たくさんの園内研修の場に出向き、データもたくさん取らせてもらいました。

 その中で感じたことは、保育者は“子どものためにいい!”と思ったら、骨身惜しまず動く人たちだということです。例えば、イタリアのレッジョエミリアの視察旅行にご一緒したS園長さんは、帰るや否やレッジョの美しい保育環境が忘れられず、子どもが主体となる保育を展開しようと四苦八苦。スタッフの同意をはかりつつ、ほどなく環境をレッジョ風に変え、ものの見事にランプが美しく灯るコーナーや子どもたちが落ち着いて遊べる遊具や遊具棚などを出現させたのです。また、子どもと保育者が保育活動の見通しを共有し、継続的に取り組めるプロジェクト保育にも挑戦し、芸術担当の大学教師を招いたりしながら、海や森のモザイク製作に長期間かけて取り組みました。その活動の情熱的で一途なこと、そのパワフルさには脱帽です。

<編集部より>

諏訪きぬ先生 Memory

 諏訪先生と出会ったのは、20数年前。『保育専科』という保育雑誌の担当になって、初めての連載記事の原稿依頼の時のこと。保育分野に参入したばかりの若き(当時)編集者に対して「あなたは、どう思うの?」と、意見を求めた(新人に対しても耳を傾けてくれた)のです。

 それは、編集者ばかりではなく、保育現場の実践研究や指導計画立案の際にも、当たり前に見受けられた光景でした。常に相手の意見を取り入れながら自らの持論を展開させていく姿勢の諏訪先生。ピンクのスーツがお似合いのかわいらしい姿が印象的でした。

 先日、諏訪先生と岩田恵美子先生と久しぶりにお会いし、懐かしい思い出に花が咲きました。諏訪先生は岩田先生と出会い、「この人の実践を一緒にまとめたい…」という強い思いが『かかわりのなかで育ちあう』『園内研修』を産み出す原動力となった、というお話を伺いました。

 人との出会いやかかわりのなかで、いつまでも心が繋がっていることの素晴らしさに、改めて気づかされたひと時でした。

2012年 夏(下)

諏訪きぬ先生の“保育観”!
“質の高い保育”ってなあに? “保育の質”は子どもの姿に…

 「“質の高い保育”って?」と聞かれたら、ちょっと答えに詰まりますね。では、「質のよい食事って?」と問われたらどうでしょうか? その答えは実に簡単明瞭で、その時その子が“楽しい”と思える保育であり、“美味しい”と思える食事のことです。

 どんなに一流の絵の先生が指導していても、その子の興味や関心に配慮せずに、描くことだけを強いられるのでは、描画に身が入らないのは当然です。食事も同じで、どんなに上等なステーキでも、その子が食べたいと欲しなければダメですね。「好きなことばかりさせていると、わがままになる」とか「大人がいいと思うものを与えることが大切だ」などとよく言われますが、目を輝かせて物事に集中している時の子どもには、大人の叱責も誘いかけも不要です。

 倉橋惣三は、そうした子どもの姿を“一時一我”と呼びました。今回のロンドンオリンピックでも、自らの夢にまっしぐらの選手たちがたくさんの深い感動を与えてくれました。

 仕事といい遊びといい勉強といい趣味といい、その境界はその子、その人にとっては判然としないもの。子どもでも大人でも、好きな物事に無我夢中で取り組めるのは、幸せなことです。子どもたちの意思が尊重され、子どもたちが楽しげに活動している保育は、“質の高い保育”だと私は信じています。“保育の質”は、子どもの姿に現れるものですね。

私の“保育実践書”観

 ある園の保育実践にずっとかかわっていて、その取り組みを「保育実践書としてまとめたい…」と思う瞬間があります。それは、そこの保育が“子どもが活かされる保育”に変わってきていると思えた時です。

 保育スタッフが喧々諤々(けんけんがくがく)話し合いを重ね、保育の振り返りをし、保育の環境や保育体制を改善しながら、限りなく保育者が優しくなる時、子どもたちの姿は落ち着いて自己主張のできる子に変わっていきます。「そこに至る保育の過程を描きたい」「園で展開されるダイナミックな動きを著したい」と思って執筆してきました。
 フレーベル館より、私が編著者として執筆した保育実践書『かかわりのなかで育ちあう』『園内研修』の2冊が、電子書籍として出版されましたのでご紹介します。

電子書籍 好評発売中!

『かかわりのなかで育ちあう』  諏訪きぬ/編著   1,260円(本体価格)

書籍詳細

 『かかわりのなかで育ちあう』は、「0歳児保育には特定の保育者との愛着形成が不可欠だ」と確信した新宿区立信濃町保育園(当時)の岩田恵美子園長と「0歳クラスから5歳クラスまで縦に追えるテーマにしたら?」という諏訪の助言が噛み合って、1年目に決めた各クラスのテーマを3年間にわたって実践的に検証しました。

 子どもの「愛着形成」を基軸に置くために担当制を2歳児クラスまで採用し、持ち上がり担任制等園全体が連携して保育者と子どものかかわりを深め、子どもの主体を育てる保育を追及しています。6年間の保育園生活を通して育つ子どもの望ましい姿に安堵した保護者は保育園への信頼感を深め、その信頼関係をベースに、子どもの自我にとことんつきあい、やる気を育てる保育の展開過程がリアルに記録された実践書です。

『かかわりのなかで育ちあう』の あんなこと こんなこと

☆深夜に及ぶ研修会

 21時半、22時…と研修時間が予定より延びていく時、「嫌なら、保育課に電話一本で中止させることができますね!?」と、誰言うともなく言い合ったものでした。公立保育園での夜間の自主研修会、テーマが追求したくて転勤拒否をした保育者もいました。

☆忘れがたい差し入れの味

 20余名の顔が上気し、熱い空気が流れる園を出る時の充実感・高揚感は今でも忘れられない思い出です。熱気溢れる場をさらに盛り上げてくれたのが、調理スタッフによる美味しい差し入れでした。園ぐるみで縦横の保育を見直し、実践記録をまとめるという大仕事は、なかなかできるものではないと今でも思っています。

☆私の写真がたくさん載っている!

 本が出版されて感動的だったのは、新卒のS先生。担当制に戸惑い、子どもがなついてくれないことに悩み、その園のポリシーに馴染もうと懸命でした。そんな姿が先輩に受け入れられ、誌面の中に、彼女の写真が3枚も収録されたのです。「私の写真が載っている」と、何冊も本を購入し、家族や親戚、友人に見てもらったとか…。嬉しいこぼれ話でした。

『子どもを活かす 園内研修』  諏訪きぬ・岩田恵美子/編著   1,260円(本体価格)


        

 『園内研修』は、新宿歌舞伎町という繁華街にある新宿区立第二保育園での実践記録です。地域によって、親の暮らしも子どもの生活リズムも大きく違います。新宿歌舞伎町を控えたこの園には、朝登園するとうとうと眠くなってしまう子どもや家に帰っても商売のため2階に放置される子ども、深夜遅くまで落ち着いて眠りにつけない子どもがいました。

 前園の新宿区立信濃町保育園から転勤した岩田先生は、この実態をどう園内研修に繋げ、スタッフの心を揺さぶるかに腐心します。研修方法を前作の『かかわりのなかで育ちあう』の3年間に模してみても、スタッフが乗ってきてはくれません。1年、2年をかけて、子どもたちの姿を見つめ、その状況に合った処遇を試みていく中で、子どもの活き活きした姿が引き出されていくと、スタッフも変わってきます。

『園内研修』の あんなこと こんなこと

☆バイタリティとヒューマニズムが不可欠

 事例を検討している中で、よく家庭の状況が話し合われました。新宿・歌舞伎町に生きる人々の生活に向き合う保育者には、バイタリティとヒューマニズムが不可欠だ…と改めて思いました。

☆こわーいパパとも渡り合う

 フランスから留学している両親とその子の暮らしぶりや園の処遇に文句を付けに来た恐そうなパパと渡り合い、やがて心を通わせるに至る奮戦記などなど。

☆園内研修の定着から得た熱い思い

 さまざまな体験を通して保育を探る園内研修を定着させながら、私も心浮き立つ思いで、ネオン街を通り抜けて園に向かったものでした。

<編集部より>

2冊の著書のおすすめのPOINT

 プライバシーが重視され、保護者から子どもの写真掲載の許可を取りにくくなった現在、写真の保育者と子どもの表情を通して、その関係性がストレートに読み取れる貴重な実践。

 “保育・子育ての原点”となる、保育者と保護者の関係構築の一助におすすめ。

(下)

 

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