保育者様へ

フレーベル館のココだけの話

 

【特集】その遊びのなかで、何が育ちますか? (番外編)    東京おもちゃ美術館館長 多田千尋さんインタビュー

2014/07/15

『保育ナビ』10月号 特集では、「その遊びのなか

で何が育ちますか」と銘打ち、プレーパーク、砂場、

木のおもちゃをテーマに、それぞれにかかわる3

の“遊びのプロ”にお話をうかがい、遊びがもっ

ている子どもを育てる力について、段の活動を

通してどう感じているのか、お話をうかがいました。

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

ウェブ版では、取材時のお話のなかから本誌では紙数

の都合からご紹介できなかったこぼれ話を紹介します。

今回は、そのなかから、

 

東京おもちゃ美術館 館長 多田千尋 先生

 

のお話を紹介します。

 

                     ★

 

多田千尋先生は、東京おもちゃ美術館 館長のほか、

日本グッド・トイ委員会

芸術教育研究所 で代表を務められています。

 

先生は、

「東京おもちゃ美術館は

コミュニケーションミュージアムだ」

と言われます。

 

それは美術館のスタンスに理由があります。ここは、

見て終わりの美術館ではありません。展示されてい

る80%のおもちゃは、その場で触れて遊べるのです。

それに加えて、遊び方がわからないおもちゃがあれ

ば、ボランティアで常駐するおもちゃ学芸員がその遊

び方を教えてくれるのです。おもちゃと入館者をつな

いでいくおもちゃ学芸員が仲介役となって、おもちゃ

を介したコミュニケーションがそこここで生まれてい

きます。

 

                    ★ ★

 

 そんな美術館を運営する多田先生の活動は館内

にとどまりません。この「仲介役」としての関係性を

美術館の外に持ち出して、おもちゃを介して、地方

自治体や企業をもつなげていこうという取り組みを

されています。それが「ウッドスタート」です。

 

 

その概要は、

 

 

 『赤ちゃんから始める生涯木育』の推進活動を

行っています。感性豊かな乳幼児期は特に、に

おい、さわり心地、味わいなど五感に程よい刺激

を与える木のおもちゃは最適です。また、国産木

製玩具はなかなか玩具売り場でみかけることは

多くはありません。木の文化が真ん中にある暮ら

しをはじめてみませんか?         

 

(HPより抜粋・要約)

 

というものです。

 

詳細は、木育ラボ のHPへ。

http://mokuikulabo.info/

 

主な取り組みは、

1. 地産池消の木のおもちゃの

  新生児へのプレゼント 

2.「木のインストラクター」の養成

3.地域材を活用した

  木質感あふれるサロンの整備

4.木の良さを体験できる

  木育キャラバンの実施

 

の4つです。

 

この活動について、

たいへん興味深いお話をうかがいました。

 

             ★  ★  ★

 

「ウッドスタート宣言」を! 

 

多田千尋先生(以下、多田先生): 

いま、「ウッドスタート宣言」をしてくれる市町村を

どんどん増やしていこうとしているのです。目標は

100箇所です。この宣言をすると、東京おもちゃ美

術館といくつか約束をしていただきます。6つの約

束(プログラム)がありますが、必ず守っていただ

くのは1つだけです。それは、誕生祝い品は地産

地消の木のおもちゃを配らなければならないとい

うものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウッドスタート宣言式の様子(熊本県小国町)

後列右端が多田先生

 

 

 

例えば、長崎のある市の市長がウッドスタート宣言

をしたとします。その市で赤ちゃんが生まれたら、そ

の土地の木で、その土地の職人がおもちゃを作って、

それを新生児の誕生祝い品として配らなければな

らないということにしています。現在、これを約束して

くれた自治体が8つあるんですよ。その第1号が、新

宿区だったのです。

 

編集部:

新宿にですか?

新宿に、土地の木はありましたか?

 
 

多田先生: 

そこですよ、問題は。ウッドスタート宣言をしても、山

もなければ職人も居ないということになれば、おもち

ゃを作れない。こういう都会型のウッドスタート宣言

市町村はどうするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新宿区のウッドスタート玩具

 
 
 
 

その場合は、姉妹都市と連携するのです。その姉妹

都市に代わりに作ってもらう。ちなみに新宿区は、長

野県伊那市が姉妹都市です。なので、伊那市の職人

さんたちが、新宿区に代わって2,300個の木のおもち

ゃを作っています。

 

これで、伊那市の地場産業を刺激することにもつなが

ります。そうこうするうち、行政のほうも、当然、 「いつ

までもよその地域の赤ちゃんのためだけにおもちゃ作

っていてもなあ」ということを言いだすわけです。

 

そして「わが市でも」ということになっていく。そうしてい

るうち、伊那市では、木のおもちゃを500個プラスして

作ることになった。今では、新宿区とあわせて2,800個

作っています。

実はウッドスタートは、子育て支援という名のもとの産

業支援の1つという側面もあるのです。こうして、どんど

ん全国各地に地場産業を作っていく。職人さんたちを遊

ばせない。しっかり仕事していただくっていう(笑)。地元

の木を使い、地元も潤うということですね。

 

これは、赤ちゃんから始める「生涯木育」ということにも

つながります。なぜ、赤ちゃんの誕生祝い品のみを必

修にしたのかというと、それは、どうしても赤ちゃんから

始めたかったからなのです。わが子が誕生した時のわ

が子に対する思い入れって、ものすごく強いものがあり

ますよね。

 

それまで少しもおもちゃで遊ばなかった若い女性が、赤

ちゃんが誕生したという理由だけで、おもちゃで遊ぶよ

うになるわけです。そうすると、誕生祝い品っていうのは

赤ちゃんのためだけではなくて、ママのためにもなるわ

けです。

 

その時に、触っていて気持ちがいいもの、見た目にすご

く心地よさを感じるものというように、ママをも「木育化」

していくっていうのでしょうか。そうすると、いちばん端的に

結果が現われるのがママとパパなんですよ。にわか木

のおもちゃファンになっていくのです。「やっぱり木って

いいよね」と。

 

そうすると、スプーンとか器も、少し木のもので取りそろえ

たくなっていく。そして6年経つと、学習机を買うことになる

でしょう。そうすると、ちょっと無理してでも木のほうを買って

みたりとか。またさらに何年か経つと、もっともっと大きな、

クライマックスと言えるものが。そろそろ手狭だよねとか

言って・・・。

 

木のおもちゃを介して、
企業ともコラボレーション

 

編集部:

「家でも建てようか」ですか?

 

多田先生:

そうです。家を建てようとなる。そこでも、やっぱり木だよ

ねとなるわけです。この間、そういう話を住宅メーカーの

住友林業さんにしたら、ショールームに東京おもちゃ美

術館の指導監修のもとで木育広場を作りたいという話に

なりました。

最近では、市町村だけではなく、企業も共感してくれるよ

うになってきました。その第1号は、良品計画(無印良品)

さんです。

 

無印良品の店舗の中に、うちと共同で木育広場を作ると

いう約束をしています。今、27か所のお店の中に木育広

場ができあがっています。売り場を削ってまでも木育広場

を作ったけれど、そしたら、逆に売り上げが伸びたと、以

前、店長が話してくれました。

 

さらに、買い物の際、無料で入会できるMUJIカードと母子

手帳を示すと、3000円ぐらいの木のおもちゃをお祝いとし

てプレゼントしてくれるのです。赤ちゃんのいる家庭をどう

顧客として取り込むか、いろいろ考えているのですね。

 

その他、アウディジャパンも店内に木育を推進しています。

全国にある100か所以上あるショールームにキッズコーナ

ーを作る時は、うちの監修のもとで木育広場を設置してい

ます。今、50か所近くの店舗で子どもたちが無垢材の上で

楽しい時間を過ごしています。

 

編集部:

展開が早いですね。

 

多田先生:

それから、企業がウッドスタート宣言した時には、必ずウッ

ドスタートを宣言をしている市町村とお見合いしなきゃいけ

ないという仕組みも作りました。

 

企業がウッドスタート宣言する

   →  どこかのウッドスタート宣言市町村を選ぶ

 

という図式です。

 

               * * *

 

例えば、企業の場合であれば、社員に赤ちゃんが生まれた

時、ウッドスタート宣言した町の杉のおもちゃを社員の出産

祝いに配りましょうとか、また、うちの社員食堂では○○杉を

割り箸に使います、といったことも広まっていくことを期待し

ています。こんなように企業と市町村が連携してもらえれば

うれしいですね。今は、市町村100、企業100が目標です。

東京おもちゃ美術館はその両者の仲人なんですね。ここの

企業とあの市町村を結び付けてという・・・。あそこの割り箸

バンバン使ってもらおうとか、あそこの地場産業の木のおも

ちゃをあそこの誕生祝い品で使ってもらおうとか、どんどん

結び付けていく感じですね。

 

日本は北欧にならぶ、
世界有数の森林大国なのに・・・

 

編集部:

木育の活動はスタートして何年ぐらいですか?

 

多田先生: 

今年で5年目です。

 

編集部:

5年で、かなり広がっていますね。

 

多田先生:

かなり急ピッチに展開しましたね。例えば、木育キャラバン

というのを作ったのです。これは、移動おもちゃ美術館とセ

ットにしてあります。フルパッケージにすると、4tトラック1台

分ぐらいのおもちゃになるのです。ここ1年では、北海道か

ら沖縄まで16回、木育キャラバンをやりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木育キャラバン

 

 

 

岡山県に西粟倉村という人口1,500人くらいの小さな村が

あるのです。そこの廃校になった旧小学校の体育館で木

育キャラバンを行いました。2日間で2,000人もやってきて

くれ、なんと村の人口を超えたのです。そしたらもう村役場

の方々も喜んでくれて。

 

この体育館を木のおもちゃでいっぱいにしようということ

になり、国産材で作られたおもちゃを揃えようと夢がふく

らんだところ、村議会が予算をあっという間に通してくれ

ました。それで今年の秋、廃校の小学校を活用してオー

プンします。

 

日本には約1,900の市町村があるのですが、どこの市町

村もほとんど林業があります。村や町では、その6割から

8割が山だという場所はいくらでもあるのです。そこには、

木を扱う職人も大勢います。木材と技がありながら、何も

しないのはもったいないですね。

 

それに加えて、日本は、ほとんどの人が知らないが、世界

第3位の森林大国なんですよ。第3位です。第1位がフィン

ランド、第2位がスウェーデン、第3位が日本ですからね。

だから、北欧の人たちからすれば、日本人はあたかも森と

仲よく付き合っているように見えているんですよ。自分たち

と同じだと思っている。でも、日本にそんなに森と仲よく付

き合ってる友達って、私のまわりにもいないんですよ。

 

編集部:

あまり見たことないです。

 

多田先生:

週末になると湖畔に行くとか、森の中の別荘に行くなんて、

そんな友達、あまりいないですよね。日本人は、情けない

ほど自然から遊離しちゃっているというのか。世界第3位

の森林大国にふさわしいライフスタイルを築けていないん

ですね。だから、それも1つの目標であるわけです。

それもあって、赤ちゃんから始める生涯木育をと考えて

いるのです。では、赤ちゃんから始めるといって何から

始めるのか。誕生祝い品からまずは始めようということ

になりました。

 

そして、日本全国の職人たちに、たくさんの木のおもちゃ

を作ってもらおうじゃないかと。今日本では、メード・イン・

ジャパンのおもちゃってあまり作られていないのですよ。

お隣の中国で作るか、ヨーロッパの木のおもちゃを輸入

するか、どちらかパターンが多いです。森林大国第3位

なのに、木のおもちゃの自給率が3パーセントを切って

いるというのは驚きです。

 

編集部:

では、日本の木は何に使われているのですか?

建材とかですか?

 

多田先生:

実は、そこにも日本の木は使われてないのです。ものす

ごい木材、つまり、宝を持っていながら、8000キロ離れ

た北欧から木を輸入しているのです。そっちのほうが供

給システムができあがっていたりして、安く仕入れやす

いというのもあります。

今、国が木材の利用ポイント制を始めています。例えば、

国産材で家を建てると30万ポイントもらえますよと。この

間まで家電製品だとか車でやっていたような仕組みです。

 

今、切り時の木がたくさん日本列島にあるらしいのです。

それは史上空前のことなのだそうです。林業をうまくやっ

ていくためには適度に間引きして、間伐をして、風通しを

よくしなければいけないし、林に日の光を入れてあげない

といけないんです。それをやらないと、きっちりと木が育た

ないんですよね。

 

生活や暮らしの中に
木を取り入れようという運動が
ウッドスタート

 

多田先生:

話がそれたので、木育にもう1度話を戻しますが、これは、

生活や暮らしの中に木を取り入れようという運動です。

それを、東京おもちゃ美術館では、ウッドスタートという名

のもとにしていこうじゃないかと。その出発点がおもちゃ

なのだと考えたわけです。

 

人間が初めて出会うアートは、もしかするとおもちゃでは

ないかと私の父が言ったわけですが(本誌インタビュー

冒頭に掲載)、そのアートを、私は「木育化」していこうか

なと考えています。人間が初めて出会うアートは「木」の

おもちゃなんじゃないかというようにデフォルメして、おも

ちゃ美術館は突き進んでいこうかなんて考えています。

木の力を借りようっていうことですかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

毎年秋に開催する「森の恵みの子ども博」

 

 

 

これが自然に接するファーストステップで、ゆくゆくは、

里山歩きだとか、雑木林や自然の中に入ってくとか、

そういうふうになってもらえるといいと思うんですよ。

プールに入る前にシャワーを浴びるじゃないですか、

そのシャワーが、うちの役目なのかと思っています。

 

編集部:

ありがとうございました。

 

* この記事は、2014年5月の取材を元に構成したものです。

 

 

 

●詳しく知りたい方へ●

東京おもちゃ美術館 

HP:http://www.goodtoy.org/ttm/

Facebook:
https://www.facebook.com/t.toymuseum

 

芸術教育研究所

HP:http://www.toy-art.co.jp/

 

認定NPO法人 日本グッド・トイ委員会

HP:http://goodtoy.org/

 

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