保育者様へ

フレーベル館のココだけの話

 

HOIKUのYOU歩道 第15回 聞かせ屋。けいたろう先生のあんなこと こんなこと

2014/12/08

第15回目は、絵本の読み聞かせの専門家、聞かせ屋。けいたろう(きかせや けいたろう)先生にご登場願いました。
けいたろう先生の“保育の遊歩道”には、どんな発見があるのでしょう?
あなたの保育を楽しむために、ご一緒に歩いてみませんか?
“遊歩・優歩・YOU歩”…あなたにとっての道の向こうには、何が見えますか?

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〈路上絵本読み聞かせ〉デビューの夜

今から、約8年前……
2006年10月14日(土)21時30分。ここは、東京都足立区の北千住。
駅ビルのシャッター前で、僕は初めて、路上絵本読み聞かせを始めた。昼間ではなく、夜。子どもではなく、大人に向けて、絵本を読んだ。駅ビルのスポットライト、街灯、バスやタクシーのライトが、辺りを明るく照らしている。

街中の騒音……家路を急ぐサラリーマンの靴の音、女性のヒールの音、道路から聞こえる車の音……。

僕はその中で、絵本を読むことにした。昼間、図書館と児童館で借りてきた、20冊ほどの絵本をトランクに詰めて……。

路上にシートを敷いて、その上に絵本を並べ、折り畳み式の小さな椅子に座った。
腹話術の人形も置いてみた。

「絵本読み屋だよ~! 絵本、読むよー!」
手を叩きながら呼びかけてみたけど、誰も止まらない。
「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい、絵本の時間が始まるよ~!」
大声を出しても、見事に通り過ぎていく人たち。なかなか冷たい視線を浴びせてくれる。

しばらくすると、おじさんが声をかけてきた。
「絵本、売ってるのか?」
「絵本を売っているのではなくて、絵本を読んでいるのです」。
おじさんは、黙って去って行った。

「そうか、目の前で絵本を読んでいなければ、何をしているのかわからないんだ……」。そう思って、読み聞かせを始めた。お客さんの居ない路上に向けて…。

恥ずかしい! とにかく、恥ずかしい。

子ども向けであるはずの絵本を、大人の自分が、見てくれる人は誰も居ないのに、路上で読んでいる。恥ずかしくて、前も見られない。まして、その気持ちが伝わってしまうのか、余計に人は通り過ぎて行くだけで、誰も止まらない。

でも、絵本を読まなければ、自分のやりたい事も伝わらない…。

「大人にも、絵本の読み聞かせは響く」。
そう思って、ようやく踏み出した一歩なのに…このままでは、帰れない。
誰か、一人でもお客さんが来るまで、胸を張って読むしかない!

30分、40分と、それでも読み続けた。
すると、二人組の女子高生が、僕の前に腰を下ろした。

一人は金髪! 一人は黒髪だが、まつ毛が天まで伸びている!

「な~に、やってんの?」
金髪の子が聞く。
「絵本を読んでいるんだよ。」
そう答えると、
「良~いこと、やってるんだねえ!」
と、褒めてくれた(笑)?

「でも、お客さんが居ないんだ」
「じゃあさ、待ち合わせまで時間があるから、あたしたちに読んでよ!」……。

けいたろう先生の「はじめまして物語」
絵本は出会いを結ぶ本

絵本は、読み手と聞き手をつないでくれます。読み聞かせは、“相手があってこそできること”ですよね。その間に生まれるかかわりが、親と子、先生と子ども、誰かと誰かをつないでくれるのだと思います。

物語に共感して、時に笑い合ったり、同じことを考えてみたり……。

僕は、そんな絵本がパートナーだからこそ、全国たくさんの人とつながることができます。絵本を読み終えた後、「読んでくれて、ありがとう」とか、「また、来てくれる?」などと言ってもらえるように、さっき出会ったばかりの関係が、特別なものに変わっています。別れるのが、寂しくなってしまう時もあります。僕は、絵本を読むことが好きですが、それ以上に絵本でつながることが好きです。

絵本は、一期一会の出会いを確かに結んでくれるのです。

【絵本】という文字は、[糸]+[会]+[本]でできていますね。なんだか、出会いを糸で結んでくれる本だと思えて仕方ありません。

バンドマンから保育の道へ

僕が保育者を志して、宝仙学園短期大学(こども教育宝仙大学の前身)に入学したのは、22歳の時。

実は、高校生の時には、ミュージシャンを夢見ていました。バンドでカッコ良く歌うために、ボイストレーニングに通って、腹筋を鍛えました。高校卒業後に、全日制の音楽スクールに通いましたが、早々に壁にぶち当たり、そこを乗り越える実力も無いままに挫折。ストリートミュージシャンで終わりました(笑)。この頃に鍛えた声と、路上で培った度胸が、 聞かせ屋の土台となっています。

その後、将来を見据えていろいろな仕事をしてみようと飛び込んだのが、【浅草ウルトラマン倶楽部】。子どもたちがウルトラマンに会いに来るというテーマパークでした。

そこで出会ったお母さんからの言葉が、保育を志すきっかけとなったのです。「息子と遊んでいただき、ありがとうございました。この子、お父さんが居ないのですよ。だから、こんな風に思い切り遊んでくれる大人の男性は、初めてだったと思います。幼稚園にも、お兄さんのような先生が居たらなあ……」。

自分が必要とされることを、とても嬉しく思いました。

絵本を読んでくれた佐藤先生

短大時代は、悩みと不安の多い日々でした。僕の同級生は就職をする時期でしたから、保育をゼロから学ぶのは、勇気の要ること。幼稚園実習は年間を通して行うのですが、辛かった。何もできない自分に心が折れて、授業に出ずに現実逃避をしていた時期もありました。そんな短大生活の中で出合ったのが絵本です。毎回、授業の始めに名作絵本を読んでくれたのは、佐藤佳代子先生。元々は、保育園の園長先生でした。その絵本を見つめて、笑ったり、涙したりするクラスメイト。

大人が絵本を読んでもらう……その光景は新鮮で、斬新で、何か特別なものを感じました。まさか、読み聞かせが自分の仕事になるとは思いませんでした。当時は、誰もやっていないことだったので、可能性は感じていました。僕は、紙芝居屋さんのイメージと、ストリートミュージシャンの経験を重ねて、夜の路上に立ったのです。

二足のわらじ

短大を卒業してしばらくの間は、大田区公立保育園の非常勤保育士をしながら、聞かせ屋の活動をしていました。平日は保育士として絵本を読み、土曜日、日曜日はショッピングセンターやデパート、そして、毎週木曜日の夜は路上読み聞かせです。

“保育士としての読み聞かせ”と、“聞かせ屋”としての読み聞かせは、少し違います。

“聞かせ屋”では、初めて出会った子どもたちに絵本を読むので、互いに緊張感があるのです。挨拶をしたり、「今、何歳?」なんて問いかけをしたり、まず「しあわせなら てをたたこう」を歌ったり、しっかり導入をしなければなりません。

そうしてようやくリラックスして、絵本を楽しんでもらえます。

また、フタを開けてみないと、何歳児が何人居る会場なのかもわかりません。そのため、僕のカバンには、30冊近くの絵本が入っていて、その場の子どもたちの様子を見て、読む絵本を決めていくのです。

本当に、ライブなのです(笑)。

年齢に合わない選書をして、読み終えた頃には誰も居なかったという失敗もあったのですよ。

保育士を辞めて、アメリカへ

保育士として2年目の春、僕の公演を見に来てくれた先輩保育士に、こんなことを言われました。「これは、あなたにしかできない活動よ。保育は私たちがするから、あなたはその道を進んでよ。絵本を持って全国を回って、いろいろな経験をして得たものを私たち保育士に伝えてよ」。

公演も増えて、今後を悩んでいた僕は、保育士を辞めることにしたのです。

そして、2年目の終わりに卒園児たちと一緒に、園を離れました。

ちょうどその頃、アメリカの日本語学校からの誘いがあり、その後2か月間はアメリカに渡り、絵本を読むことになりました。

日本語に英語も交えて、日本の絵本を読みました。現地の幼稚園や保育園、書店に学校、サンフランシスコの路上でも! 絵本には絵の力もあるので、始めは日本語だけで読んでいましたが、絵本をじっくり見てもらうには、やはり英語が必要です。

言葉で歩み寄ること、心の距離を縮めることが大事なのです。アメリカで一番人気があったのは、『ねずみくんのチョッキ』(ポプラ社)。アメリカ人は、伸びていくチョッキに大笑い。

初めての絵本紹介

フレーベル館との出合いは、僕がJPIC読書アドバイザー養成講座に通っていた時のことです。同じ受講者だった、フレーベル館のKさんに、保育雑誌『Nocco』の企画で、保育学生時代の恩師との対談の取材を受けたのが始まりです。その恩師とは、短大で絵本を読んでくれた、佐藤先生です。

その後、『Nocco』で、絵本の紹介を連載することになりました。タイトルは、[絵本カルボナーラ]。毎月のテーマに合わせて、路上で読み聞かせてきた絵本を中心に紹介。僕にとって、初めての書き物で、全てが手探りでしたが、編集担当者のHさんと何度も打ち合わせをしながら執筆しました。時に意見が合わずに、大変なこともありました(笑)。

渡米公演中に、現地から原稿を送っていた時もあったのですよ。「僕は今、アメリカで絵本を読んでいます」なんて。初めて掲載された自分のページを見た時は、本当に嬉しかったなあ……。Hさんと二人三脚で、成長させてもらいました。

その後、『Nocco』の連載をまとめ、『絵本カルボナーラ』として市販本になったのです。

僕が通ってきた道

僕は、〈聞かせ屋。けいたろう〉となるまでに、様々な道を通りました。

高校生時代にバンドで楽器に触れ、音楽教室で発声を学び、ストリートミュージシャンで路上パフォーマンスを学び、ウルトラマン倶楽部で子ども向けのステージも学びました。そして、宝仙学園短期大学で保育を学び、絵本と出合ったのです。

ステージに立って、ウクレレで歌い、子どもにも大人にも絵本を読む。

〈聞かせ屋。けいたろう〉の活動には、それらの経験が全て詰まっています。

その時期、その時期にやりたかったことを思い切りやってきた結果、全てがつながったのだと思います。将来に悩んだ時間も、少なくなかったです。迷いながらも、たくさんの励ましを受けて、何とか前向きにやってきました。

どれが欠けても、今の自分にはならなかったと思います。全てが必要な経験でした。

無駄な経験は無い、今できること、やりたいことを思い切りやろう。
 そして、出会いと、感謝を大切にする。
 そんな風にして、僕は歩いてきました。
 これからも、そうありたいと思います。

編集部より

けいたろう先生 あ・ら・か・る・と

〈聞かせ屋。けいたろう〉といえば、あのエネルギッシュな読み聞かせ術!

今回のエピソードから、改めて、「読み聞かせのプロ」の姿勢を感じました。何事も努力無しでは、達成感は得られないということでしょう。

けいたろう先生と原稿を進める中で、「どんなことでも無駄はない」という話で盛り上がりました。“今まで歩んできた道があるからこそ今がある”……シンプルなことですが、とても大切なことだと気づかされました。

2014.December(C.S.)

けいたろう先生の著書から

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『カルボナーラ』というタイトル

『絵本カルボナーラ』というタイトル、おもしろいですよね。僕は保育士の時に、コンビニでよくカルボナーラを買って、休憩中に食べていたのです。

イメージなのですが、若い先生たちってスパゲッティが好きですよね?(思い込み?)カルボナーラは、クリーミーで子どもに大人気ですが、チーズとペッパーで大人の味にもなりますね。

「絵本は、子どもだけでなく、大人も楽しめるよ!」という僕の考えに、ピッタリだったのです。保育に携わる先生方にも、おいしく召し上がっていただきたいです。

読み聞かせのヒント

僕が絵本を読む際、一番大事にしていることは、絵本を楽しむことです。「この絵本、大好きなんだ。一緒に楽しもうよ!」などと、提案するように読んでいます。

読み手と聞き手が、その絵本を共感できたら嬉しいですよね。

そして、表紙、見返し、裏表紙までしっかり見せます。見返しには物語の導入や、余韻となる絵が描かれているものも多いのです。色だけだったとしても、その色には意味があるのかもしれません。

よく見ると、ぶどう狩りに行く絵本は、見返しがぶどう色になっていたりもするのですよ。裏表紙には、アフターストーリーが描かれていることが多いです。

しっかり見せることで、物語の余韻まで味わってください。

絵本を、頭の先から足の先までしっかりゆっくり見せること、これが読み手の私たちができることだと思います。それと、読んでいる途中に子どもがしてくれる質問は、答えて良いのか迷いますよね。答えると、ほかの子も続いてしまったりもします。そんな時は、目を合わせて頷くなど、無言の認めをしてあげると良いかと思います。

路上絵本読み聞かせでの出会い あんなこと こんなこと ・・・

☆ 初めて路上で出会った女子高生

僕が初めて大人に向けて絵本を読んだ相手で、金髪に長い付けまつ毛の二人組。絵本を読み終えるたびに拍手をくれた。『かわいそうなぞう』(金の星社)を読み終えた時に流してくれた涙が忘れられない。

☆ ひどく酔っぱらったおじさん

『かわいそうなぞう』を読んで欲しいというので、読み始めると、物語の中盤から下を向いて号泣。絵本を読み終えると、「スナックに行くよりずっと良かった」と言って、駅に向かって行った。

→ 「編集部ピックアップ」 でも、聞かせ屋。けいたろう先生の著書を詳しく紹介しています

編集部より

著書のおすすめPOINT

『絵本カルボナーラ』は、「読み手と聞き手が共感できる絵本」のための読み聞かせのコツがわかる内容が満載です。「人と人を結ぶ本」との出合い。「読み聞かせの隠し味」など、おいしい絵本を食べる(読み聞かせる)楽しさを教えてくれる1冊です。

人とかかわるうえで大切なエッセンスが詰まった書籍としておすすめします。

2014.December(C.S.)

《聞かせ屋。けいたろう》プロフィール

聞かせ屋。けいたろう

本名は坂口慶。元保育士。JPIC読書アドバイザー。夜の路上で、大人に絵本を読み始めた、聞かせ屋。絵本作家として、『どうぶつしんちょうそくてい』(アリス館)などの文章を担当。

延べ4か月の渡米公演を経て、読み聞かせ、絵本講座、保育者研修会で日本全国を駆け抜けている。

[ホームページ]http://kikaseya.jp

※幼稚園・保育所関連のお客様につきましては、お近くの小社販売店でもご注文を承っておりますのでお問い合わせください。また、お近くの販売店が不明な場合はフレーベル館 営業推進部(03-5395-6608)までご連絡ください。

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